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FY2022 JDA FORUMを終えて 各セッションに寄せられたご質問と回答を公開します

 NPO法人JDA協会は、本年度のFY2022 JDA FORUMを成功裏に終えました(12月13日開催)。ご参加、ご講演いただきました皆様および開催にあたりご賛同賜りました支援団体・組織に厚く御礼申し上げます。

 今回のJDAフォーラムは、中東海水淡水化ビジネスをはじめ、国内外の水処理ビジネスで培ってきた研究、事業経験や技術を通じて多様な情報を有する団体や個人で構成しました。今後ますます多角化する海外ビジネスを担う次世代の支援と、新たな切り口での海外進出を支援したいと考えています。

 『水資源の有効活用と最新動向』を全体テーマに、以下の3部構成となりました。世界の水問題、環境問題解決のためのテクノロジー、最新技術のご講演、ご紹介であり、今後の世界の水処理に関わっていく研究者、技術者、事業推進の皆様にとりましてご参考、一助となれば幸いです。

  • 第1部「水再利用の新展開」

テキサス州立大学の池端先生による「米国の水飲用再利用の事情」

  • 第2部「海水の総合利用」

東京農工大学の滝山先生による「海水溶存資源の総合利用プロセス構築のための回収技術」

ナイカイ塩業株式会社の小林先生から「ナイカイ塩業における海水利用プロセス~マグネシウム回収の実用例」

  • 第3部「水処理へのDX展開」

中央大学の山村先生による「AIによる上水道のスマート化~可能性と課題~」

Fracta Leap社の田中先生による「AIを活用したRO膜設備の最適運転」

 

フォーラム開催を通じて、JDAフォーラム委員会に寄せられた質問を集約し、講師の皆様にご回答を賜りましたので、以下に掲載し紹介します。



「水再利用の新展開」への質問(左)と回答(右)

Resource Recoveryの観点から水に加えて下水からエネルギー、アンモニア、リンなども回収、という動きもアメリカでは有りますでしょうか?

バイオガスエネルギーは米国でもある程度の規模がある下水処理場では重要なエネルギー回収の手段の一つになっております。バイオガスに比べると栄養塩回収は未だそれほど活発化・一般化していないように感じます。


Public Outreachの観点から下水の再利用および飲用化に対する心理的障壁に対する事業推進者の取組について、何か具体的な取り組みがあれば教えてください。

全てのステークホルダーに向けた積極的でオープンなパブリックアウトリーチ活動が第一だと思います。飲用再利用の費用対効果を数字を用いて具体的に示すことが効果的です。また高度処理技術の能力と再生水の品質を保証する科学的なエビデンスを示すことが、重要かと思います。


Zero Liquid Dischargeの適用現状についてRO膜処理で発生する濃縮水の処理や処分に対して、プロセス提案や適用現状について教えてください。

濃縮液の削減、処理は積極的に研究開発されています(我々の研究室でも行っております)。 CCRO、EDMなど、様々なROやEDベースの淡水化技術のバリエーションが提案されており、再生水を含め弱塩性の原水を用いた場合の回収率を95%程度に上げることが現実的になりつつあるようです。再生水のZLDはまだコスト的に見合わないので、机上のものかなと個人的には考えております。


飲用化コストに関して現状の飲用化コストおよび将来の目標数値はございますでしょうか?

現在のところ、1,000ガロンあたり3~5ドルというのが飲用再利用のコストかと思います。これが2~3ドルになると飲用再利用がより一般的になるかなと思います。



「海水の総合利用」への質問(左)と回答(右)

海水溶存資源の利用に関して国内の研究は、10年周期でブームがあるとの話であるが、加速することは可能か?

海水溶存資源の国内研究の特徴として、市場の要求に柔軟に対応できるだけの要素技術の蓄積はある。例えば、濃縮海水の組成が変化しても同品質の無機塩を沈殿させるなどの技術である。したがって、海水総合利用システムの全体最適化を図る研究が進めば加速は可能と考えられる。


海水の濃縮(淡水化)と資源回収の2つを複合する場合、統合プロセスのコストが最適となる濃縮海水の濃度はいかほどでしょうか。また回収する資源の純度向上すなわち夾雑物質の分離はプロセスのどの部分で行うのが経済的なのでしょうか?

FSを行った際の検討結果を紹介させていただくと、ED濃縮水TDSで20%程度、RO濃縮水TDSで6%未満程度である。無機塩の形態で資源回収を行うとすると、資源の純度は溶液のpHによっても左右される。したがって、プロセス流体の選択も大切であるが、pHをどの範囲で運転するかも重要である。


2つのMg(OH)2回収プロセスを紹介されています。比較検討はされていないとのことでしたが、原理的に高品質はMg(OH)2が得られるプロセスはどちらになりますか?

品質を結晶性ととらえれば、食塩を回収する前のプロセス流体を原料とする方が有利であり、品質を結晶粒径ととらえると、食塩を回収した後のプロセス流体を原料とする方が有利である。


海水溶存資源の経済性評価のグラフ縦軸は各市場価格ですが、回収コストの現状とほぼ同じなのか、あるいは物によってはかなり乖離があるのか?

経済性評価の対角線上の化合物については、ほぼ同じ程度であると判断している。海水から取得する無機塩は不純物が少ないと評価されることが多く、医薬品品質のグレードなどより高付加の製品を対象として生産することが重要である。



「水処理へのDX展開」への質問(左)と回答(右)

海外でのAI実装の状況、進展について、ご教示ください。

カナダでは、浄水工程へのAI実装に向けて、大きなプロジェクトが進んでいると伺っています。

また、Xylem社(米)が積極的に、アメリカでのAI実装に向けて、活躍しています。


国内事業者と共同で研究開発されていますが、AI導入に対する事業者側の反応は如何でしょうか?

高い精度が出ていることについて、現場でも非常に期待感を持って、受け入れられています。

実証により、今後、信頼度が増すことで、使って見たい、と感じる事業体も増えるのでは、と期待しております。


ご講演の中で、AIが不安アラームを出すことでヒトに支援を要請するお話しがありました。社会インフラへのAI導入に向けて、AIとの付き合い方はどうするのがいいか、先生のお考えをお聞かせください。

人をサポートする機能として実装することが望ましいと思っています。

浄水場をAIで完全に自律運転化することは、なかなか難しいかもしれません。

しかし、AIがきちんと、「わからない」と言うことで、「道具」として、現場の方がAIを使いこなせるようになればと思っています。


コスト削減について4割という具体的な数値が上げられていますが、そのコストの前提条件を教えて下さい。また実証の期間はどれくらいですか?

4割という数字は、洗浄頻度が下がることによる、膜の洗浄コストの削減額の試算結果です。1年当たり最大4割削減できるという試算ですが、資料に記載の通り、現在検証中で、実証した数値ではありません。


手動制御の場合、PLCに直接指示可能なレベルの運転指示とはどういったイメージでしょうか。高圧ポンプのインバータ周波数を~まで下げるなどでしょうか。水量と水質は維持できるようにAIが考えるのでしょうか?

AIで保証水量と水質に影響を与えない指示を行います。運転指示の内容は詳しく申し上げられないのですが、通常のプラントでROに出している運転指示を、AIが複数組み合わせて指示します。


どれだけの頻度で指示をだすのでしょうか。人件費に影響がない範囲で指示をしたとして、電力消費減や膜交換頻度はどの程度狙えるのでしょうか?

指示の頻度は各プラントの状況により異なります。膜交換頻度については、前述の通り実証中のため言及は避けますが、電力消費量については、人件費に影響がない範囲での指示でも効果があることを確認しております。